入社後間もなく帰省したとき、実家で目にしたのは、会社が新入社員の家族に送った書面だった。これからの時代、経済は右肩上がりで、会社も着実に成長するだろうから、安心してくださいという内容だった。バブル経済が始まる少し前だった。
それから10年が過ぎ、50歳で退職または転籍が当たり前の時代になりつつあった。
その追い風の理由となったひとつが適格退職年金だった。いわゆる企業年金である。
勤続年数5年以上の社員が、特に希望して50歳以降に退職するときに限り、退職時までの勤続年数について定年退職金が支給されるという規定があった。定年退職金は一時金請求も可能だったが終身年金だった。
50歳になるとほとんどの先輩が退職した。